名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)1845号 判決
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〔判決理由〕そこで百合子が自賠法第三条にいわゆる「他人」に該当するか否かについて判断する。
正男が原告の夫であり、百合子が正男夫婦の娘であつて本件事故当時満二一歳であつたこと、右の者がいずれも生活をともにしていることは当事者間に争いがない。<証拠>を総合すると、本件自動車は正男とその長男(百合子の兄)が共同で本件事故の一年以前に購入し、ほぼ同じ割合でこれを使用していたこと、昭和四二年八月四日に百合子が普通免許証を取得した後は同女も時おり本件自動車を運転しており、さらに毎朝運転練習を兼ねて父正男の同乗のもとに自宅から二、三〇〇メートル離れた近江絹糸大垣工場まで通勤に使用していたこと、しかし一人で遠距離の運転をしたことはなく、その場合は同女の兄か町垣が同乗したこと、百合子と町垣は結婚を予定し、双方の親の了解のもとに交際していたものであること、右両名は本件事故の日の約一週間前に滋賀県の琵琶湖大橋を経て大阪府下千里丘の町垣の伯父宅に立ち寄り、同人に百合子の紹介かたがた二人でドライブを楽しもうと考え、共同で運行計画を練り、本件事故の日の二、三日前に百合子から父正男および同女の兄に対し右事情を告げて本件自動車の貸与若しくは使用の許可を求めたこと、正男は主たる運転を町垣が行うよう希望をのべ運行上の注意を与えたのみで、二人が本件自動車を使用してドライブすることを了承したこと、事故当日父正男は百合子が一人で自宅から本件自動車を運転して大垣市林町所在の町垣の寮に向うのを見送つたこと、同女は右寮で町垣を助手席に同乗させて関ケ原まで運転を継続し、同所で町垣と運転を交替したこと、そしてさらに助手席に同乗してドライブを続けるうち本件事故が発生したこと、町垣の普通免許証取得時期は昭和四二年五月一五日で、百合子の場合とそれ程ちがわないこと、以上の事実が認められ<反証排斥略>。
ところで、自賠法三条の「運行供用者」であるか「他人」であるかは自動車について運行支配と運行利益を有しているか否かにより決すべきものと解されるが、右は当該車輛の日常の使用、管理の状況、具体的な運行状況等に照らし、実質的に判断さるべきものと考える。
しかして前記認定の事実によれば本件自動車はいわゆるファミリーカーに近く、運転免許証を有する正男の家族構成員であれば一応誰もが利用し得る状態にあつたこと、ただ百合子については本件自動車の実際の利用の度合が少なく、運転経験、技術が十分でないことや年齢等に鑑み、本件自動車の使用について父正男や兄の許可を必要とし、長距離運転は一人ではしないなどの事実上の制限があつたことが推認される。しかし本件事故当日のドライブについては正男は本件自動車を町垣と百合子の双方に貸与ないしは使用の許諾を与えたものと認められ、これに前認定の如く百合子が本件の運行目的、運行計画の立案および運行それ自体について町垣とほぼ対等な立場で関与していたことを併わせ考えると、百合子は事故当時本件自動車の運行について運行支配を有すると共にその運行による利益を享受していたものと認めるのが相当である。
原告には関ケ原付近で百合子から町垣に運転を交替した時、運行支配もまた町垣に移転したものと主張するが、百合子の本件自動車に対する運行支配が、現にハンドルを握つていたか否かという、同女の具体的な運転の有無のみにかかわりなく認められ得ることは前認定のとおりであるから理由がない。
したがつて、百合子は本件自動車を自己のために運行の用に供するものとして自賠法三条のいわゆる「他人」には該当しないものというべく、百合子の相続人たる原告は正男に対し本件事故に基づく損害賠償請求権を有しないものといわねばならない。
(西川力一 藤井俊彦 柄多貞介)